映画『ちょっと思い出しただけ』レビュー
二度と戻れない愛おしい日常をちょっと思い出しただけ
《 みどころ 》
劇団ゴジゲンを主宰し、『アイスと雨音』(2020年)や『くれなずめ』(2021年)の松居大悟監督が物語の最期に、MV制作などで親交のあるクリームハイプの楽曲「ナイトオンザプラネット」を流す長編映画をコロナ禍の東京で捻り出した。
2021年7月26日に34回目の誕生日を迎えた元ダンサーの照生(池松壮亮)は、照明の仕事に従き、かつて自分に当てられていたスポットライトを舞台に立つ誰かに照らす毎日。一方、タクシー運転手の葉(伊藤沙莉)は、今日も夜の東京の街を走る。ある日、葉が乗客を降ろした先で、仕事を終えたひと気のない舞台でステップを踏む元カレの照生の姿を見かける。2人は、7月26日を遡りながら、一緒に過ごした6年間をちょっと思い出していく。
日常のふとしたタイミングで思い出す会話、カレの誕生日、ふざけた掛け合い、すれ違いの喧嘩。人生の節々で時間を共にしたあの人は、今はもう隣にはいないけれども、確実に自分の糧になっているなと自分に言い聞かせたり、どうしてあのとき、別れてしまったのかと未練が残っているのかは分からないが、二度と戻らないあのくだらないと思えた瞬間こそがかけがえなく、たぶんこれからも思い出してしまうのだろう。
劇中では、尾崎世界観が影響を受けたジム・ジャームッシュ監督『ナイト・オン・ザ・プラネット』のシーンを2人が真似したり、ベンチに座る永瀬正敏、妻と別れた酔っ払い客が車に乗ってくるなどのジャームッシュへのオマージュシーンもあり、それを観る楽しみもあるだろう。また、急速なスピードで変わりゆく2021年の東京のコロナ禍の生活をそのまま切り取った映像と、それ以前の生活シーンの対比も丁寧に作られていて新鮮である。
《 ストーリー 》
怪我でダンサーの道を諦めた照生(てるお)とタクシードライバーの彼女・葉(よう)。
めまぐるしく変わっていく東京の中心で流れる、何気ない7月26日。
特別な日だったり、そうではなかったり…でも決して同じ日は来ない。
世界がコロナ以前に戻れないように、二度と戻れない愛しい日々を、
“ちょっと思い出しただけ”。
監督・脚本/松居大悟
出演/池松壮亮、伊藤沙莉、河合優実、尾崎世界観、成田凌、菅田俊、神野三鈴、篠原篤、國村隼、永瀬正敏
主題歌/クリープハイプ「ナイトオンザプラネット」(ユニバーサル シグマ)
日本公開/2022年2月11日(金・祝)全国公開
配給/東京テアトル
[ スチール:©2022『ちょっと思い出しただけ』製作委員会/文:森口 美緒/編集:おくの ゆか ]
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