第34回東京国際映画祭『ちょっと思い出しただけ』松居大悟監督Q&Aレポート

クリープハイプ「ナイトオンザプラネット」が最後に流れる物語を捻り出した作品!

コロナ禍の東京での時間の流れや街の空気、芝居に嘘をつかせたくなかった‼︎


2021年11月2日、第34回東京国際映画祭のコンペティション作品『ちょっと思い出しただけ』の上映後にQ&Aが角川シネマ有楽町で行われて、松居大悟監督が登壇した。


ーー監督をお呼びしたいと思いますので、皆さん拍手でお迎えください。松居大悟監督、どうぞステージへお越しください。今日、世界初上映ですよね。


松居監督:はい。


ーー誕生日に世界初上映、すごいですよね。


松居監督:世界初上映で、一緒に立ち会えました。



ーーすごいですね。


松居監督:ありがとうございます。


ーー多分、誕生日だと知らないで上映日を決めていると思います。意図的に決めたのか僕には分からないですが、どなたかが決めたのですね。すごいですね。一つ、私から質問して、その後、皆さんから質問を受けたいと思います。この作品を僕が観たときは、まだ完成する前のバージョンだったのですが、コロナが広がり初めていた真っ盛りの頃だったので、現代のコロナ禍のシーンから始まって、過去に遡ると、コロナ以前の居酒屋では皆んなが盛り上がっていて、「ちょっと前はこうだったな」とある種、感慨深かったです。


松居監督:そうですね。タクシーの形も過去と現在でちょっと変わっています。




ーーそうですよね。その辺がすごく細やかに作られた映画だと思うのですが、現在から過去に遡っていくスタイルというのは、どういう理由でこういう風に遡られた意図があったら教えてください。


松居監督:自分で監督と脚本を書くとき、勢いで書けることもあるのですが、この台本は書けなくて、1年くらい苦戦しました。もともと去年の6月か7月くらいにクリープハイプが先に「ナイトオンザプラネット」の曲を作ったときに、この5〜6年は彼らと一緒にやっていなかったんですけれども、「これで何かできないか」と言ってもらい、「最後にこの曲が流れる物語を考えよう」というところから始めました。尾崎(世界観)くんにとって、ジム・ジャームッシュ監督の『ナイト・オン・ザ・プラネット』(1991年)に『ハイプ』という台詞が出てきて、その作品が好きで、バンド名をクリープハイプにしたバンドがその曲を作ったので、バンド生命を懸けているような気持ちを勝手に持ちました。まず、ジム・ジャームッシュの『ナイト・オン・ザ・プラネット』が全く同じ時刻の色々な場所で、時間がちょっとずれて行くのですけれども、最後に「ナイトオンザプラネット」の曲が流れるときに、「僕らが世界各地の話は絶対に出来ないな」「このご時世、東京ロケだろう」となり、全く同じ日付の定点観測のやり方にしようというところから、「順繰りだとなんだかなあ」と思い、色々と考えて、段々、段々、幸せだった所に遡っていくというのがコロナ禍も含めて、すごく捻り出した感じですね。



《 Q&Aレポート 》


ーー出てくる葉と照生の関係が羨ましいぐらいで、とても良かったと思います。今回、タクシーの中のシーンが多かったのですけれども、監督にその意図があったら教えていただきたいのですが。


松居監督:はい、ありがとうございます。これは本当に、撮影と照明技師と僕とプロデューサーとですごく意見が分かれたのですけれども。大抵、日本の車の撮影は、牽引といって前に車を走らせて引っ張るか、スクリーンプロセスといってセットの中でグリーンバックで背景を動かして、ただただ車のシーンを撮るかの大きく分けてこの2つなんです。スクリーンプロセスで撮った方が芝居が何回も出来るのですが、スクリーンプロセスの方がちょっとだけCGっぽさが出てしまう。今は、そんなこともないのですけれども。牽引だとリアリティーがとてもあるけれども、カメラや照明を貼り付けたり、前に走らせたり、大変なものがあり、どっちにするというので、最終的には芝居に嘘をつかせたくなかった。ジム・ジャームッシュの『ナイト•オン・ザ・プラネット』はスクリーンプロセスで撮ったと分かっていて、劇中のウィノナ・ライダーはハンドルを大きく切っていたのですけれども、実際の運転では、そんなに大きくハンドルは切らない。牽引だとハンドルを持っているだけなので、曲がるときにハンドルが自然に回る程度。そこで、芝居に嘘をつかせたくなかったので、牽引にしました。それに加えて、窓の外の新宿の景色や、現代のジャパンタクシーの黒い車体だと窓の傾斜が急で、緑のタクシーの車体だとなだらかなんですけれども、それだと窓の外の新宿の景色や車体の上の街頭の照り返しや見え方が全然違うんですよ。それが面白くて、スクリーンプロセスだと表現出来ないので、色々な時間の流れと街の空気と芝居に嘘をつかせたくないことから、皆んなで話し合って牽引に決めました。


ーー素敵な映画をありがとうございました。劇中の皆川まゆむさんの振り付けが1本の作品にならないかとも思いました。松居監督は『アイスと雨音』(2018年)で舞台をそのまま映画化したり、ご自身で劇団もやられていますが、映像の中に舞台作品を織り込むことにどういった狙いがあったのか、どういった推敲があったのかお尋ねします。


松居監督:演劇を売り込もうというよりも、僕は劇団をやっているからこそ、演劇の景色を知っている。その分、会社員の生活を知らないので、演劇だと、そこにどういうことが起きているのかを把握しているから、説得力とリアリティを持ち込みやすくなる。加えて、最終的に照生がやっている照明助手のピンスポットの仕事なんですけれども、僕は照明でピンスポットをやっている人の横顔とかがすごく格好良いと思っていて。舞台上のお客さんや観ている演者もそうだけれども、観ている人が照らされるストーリーにしたいと思ったときに、照らされていた男が照らす側になる男軸にしようというのが結果的に良かったかもしれないです。そういう風に演劇を持ち込みました。



《 Q&Aの概要 》

開催日:2021年11月2日

会場:角川シネマ有楽町

登壇者:松居大悟監督


[ スチール:©︎2022『ちょっと思い出しただけ』製作委員会/文:おくの ゆか ]



《 『ちょっと思い出しただけ』ストーリー 》

別れた男女が最愛だった時を遡り、もう一度別れ直す。ジム・ジャームッシュ監督の名作に着想を得て、現代を反映させつつ描いた新しい形のちょっぴりビターなオリジナルラブストーリー。怪我で夢を諦めた元ダンサーの照生(池松壮亮)とタクシドライバーの葉(伊藤沙莉)の6年間に及ぶ恋愛模様を、照生の誕生日である7月26日の1日を通して描く。

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