映画『廃市』レビュー

写真:©︎ PSC

映画『廃市』(1983年)レビュー

大林宣彦監督が愛した福永武彦の世界を映像化!

横浜シネマリンで大林宣彦監督傑作選 特集上映中!


≪みどころ≫
1983年、大林組のスタッフ全員が偶然2週間の夏休みが取れたことから、大林監督はその期間を使って原作の雰囲気を出すために柳川にて16mmカメラで撮影し、念願の福永武彦の同名小説を映画化した。

大林監督は、10代の頃に福永の「草の花」に出会い、自分の小説のように偏愛したという。映画の冒頭には、北原白秋の詩集「おもひで」の序文の「さながら水に浮いた灰色の柩(ひつぎ)である」とスクロールで流れる。白秋に憧れた福永は、柳川を一度も訪れることもなく「廃市」を書き、「nowhere として読んでいただきたい」と残している。「廃市」の舞台は架空の街であるが、福岡県柳川市で全編オールロケが行われた。本作は、低予算で撮られており、技術者はその技術を、俳優は演技を、資産のある者はお金を持ち寄って作られたといわれている。それでも根岸季衣は役作りのためにかなりの減量を試みて演技に挑んだという。

当時、高校生だった主演の小林聡美は、大林監督から『転校生』(1982年)の後1年間はテレビに出ないよう提案されて、その結果、本作に起用された。当時の小林は、大林監督の演出が自由度の高かった『転校生』とは異なり、女性の微妙な心理の解説まであったと語っていた。明るくてたおやかなヒロインを演じるために、親戚から裏千家の茶道を教わって、撮影では表千家のお点前を披露している。また、江口役の山下規介が「安子」と呼ぶべきところを「直子」と呼ばれて小林の真顔になったシーンがアテレコで調整されて、そのまま使われているようだ。

本作を約30年前に観た者は、時が経つにつれて観返してみて、実は質の高い映画であったことに気づいている。確かに、約50頁の濃密なストーリーの文芸作品が忠実に描かれている。とくに、江口が街の駅に到着した列車の音と水の音とのコラボレーションが福永の世界へ誘う。堀割りを舟で進む場面や水神祭りの様子なども本当に美しい。室内楽のような劇中に流れる音楽は、大林監督自ら作曲している。柳川の風情ある景色に、音楽や水の音、鈴の音、虫の声、動物の鳴き声なども加わって、住む者には死にゆく街が、観る者にはノスタルジックな美しい街が描かれている。

福永武彦の妻の貞子氏も再上映のときには、足を運んだという『廃市』は、劇場で観ることのできる機会があれば、ぜひ劇場でも楽しんでいただきたい。


≪ストーリー≫
古びた運河の町のある旧家を舞台に、美しい姉妹とそこを訪れた青年の一夏の出来事を描く。江口(山下規介)は、大学の卒論を書くためにひと夏を過ごした運河の町が火事で焼けたことをニュースで知る。そして、この町を訪れたときのことを思い出す。親戚から紹介されたその町の旧家には、まだ少女の面影を残す妹の安子(小林聡美)と祖母の志乃(入江たか子)、高校生の三郎(尾美としのり)、お手伝いが住んでいた。他にも、姉の郁代(根岸季衣)と婿養子の直之(峰岸徹)がいるというが。

◻️映画情報
監督:大林宣彦
脚本:内藤誠、桂千穂
原作:福永武彦
撮影:阪本善尚
美術:薩谷和夫
出演:小林聡美、山下規介、根岸季衣、峰岸徹、入江若葉、尾美としのり、林成年、入江たか子
1983年/DVD/106分/PSC


◻️監督プロフィール
1938年広島県尾道市生まれ。幼少の頃から映画を撮り始め、大学時代に自主制作映画のパイオニア的存在となる。CMディレクターとして手がけた作品は3000本を超える。映画監督として、日本の映像史を最先端で切り拓いた、まさに「映像の魔術師」。1977年に『HOUSE/ハウス』で商業映画に進出し、80年代の「尾道三部作」は世代を超えて熱狂的な支持を集めた。「同じことは二度としない」と公言。大林監督のフィルモグラフィは1作ごとに異なる実験が行われている。90年代には実験精神溢れる「新・尾道三部作」を製作。近年では、強い反戦の思いを込めた「大林的戦争三部作」を製作。

自主製作映画『ÉMOTION=伝説の午後・いつか見たドラキュラ』(1967年・16㎜)が全国の画廊や大学で上映されて高評価を得る。『喰べた人』(1963年)はベルギー国際実験映画祭審査員特別賞を受賞。『HOUSE/ハウス』(1977年)で商業映画に進出。自身の古里・尾道を舞台にした『転校生』(1982年)、『時をかける少女』(1983年)、『さびしんぼう』(1985年)は「尾道三部作」と称されて世代を超えて親しまれる。『異人たちとの夏』(1988年)で毎日映画コンクール監督賞、『北京的西瓜』(1989年)で山路ふみ子監督賞、『青春デンデケデケデケ』(1992年)で平成4年度文化庁優秀映画作品賞、『SADA』(1998年)で第48回ベルリン国際映画祭国際批評家連盟賞、『理由』(2004年)では日本映画批評家大賞・監督賞、藤本賞奨励賞を受賞。『この空の花〜長岡花火物語』(2011年)、『野のなななのか』(2014年)、最新作『花筐/HANAGATAMI』(2017年)は「大林的戦争三部作」となり、第72回毎日映画コンクール日本映画大賞、第91回キネマ旬報 監督賞を受賞。2004年春の紫綬褒章受章、2009年秋の旭日小綬章受章。

◻️『花筐/HANAGATAMI』公開記念 大林宣彦監督傑作選 特集上映


世代を超えて熱狂的な支持を集める大林宣彦監督『花筐/HANAGATAMI』の公開を記念して、2018年2月10日(土)〜3月2日(金)まで横浜シネマリンにて懐かしい選りすぐりの11作品が上映中。
横浜シネマリン(大林宣彦監督傑作選 特集上映)
http://cinemarine.co.jp/obayashi-nobuhiko-directors/
交通アクセス
・JR京浜東北線 関内駅 北口徒歩5分
・横浜市営地下鉄 伊勢佐木長者町駅 3B出口徒歩2分
・京浜急行 日ノ出町駅 徒歩5分
〒231-0033 横浜市中区長者町6-95
TEL:045-341-3180/FAX:045-341-3187
映画館公式サイト:http://cinemarine.co.jp/


[写真:©︎ PSC /文:おくのゆか]

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