第34回東京国際映画祭『復讐』ブリランテ・メンドーサ監督TIFFトークサロンレポート

TIFFトークサロンは、来日が叶わなかった監督たちと、オンラインで行うトークセッションである。2021年10月31日に、第34回東京国際映画祭コンペティション部門『復讐』のブリランテ・メンドーサ監督がオンラインで登壇した。


メンドーサ監督:皆さん、こんにちは。再び、この東京国際映画祭に戻ってくることができました。皆さまに『復讐』を観ていただく機会を得まして、本当にうれしく思っています。またガラ・セレクション部門『GENSAN PUNCH 義足のボクサー(仮)』(監督)とアジアの未来部門『ブローカーたち』(プロデューサー)も観ていただく機会も得まして、ありがとうございます。


ーー今回のTIFFトークサロンとしても、メンドーサ監督が最初になります。今は、どちらにいらっしゃるのですか。ご自身のプロダクションにいらっしゃるのですか。


メンドーサ監督:今、ルソン島で撮影しており、ミントロにおります。非常に海岸の近いところにいて、おそらく、11月の半ばまでここで撮影していると思います。


ーーものすごい撮影のペースですね。コロナ禍の中で、非常に早いペースで撮影をされていることは凄いです。その辺りの事情をお聞かせいただけますか。


メンドーサ監督:確かにコロナ禍の状況ではありますけれども、コロナがあったとしても、私たちのクリエイティブな映画制作の活動をやめるべきではないと思っています。コロナ禍では、これまで以上に大変な時期がありましたけれども、価値のあるクリエイティブな活動をやめるべきではないと思います。とくに、私は映画制作が大好きなので、ここで止まってはいけないと思って活動しています。


ーー監督の映画におけるリアリティについてお聞かせください。『復讐』では、このシーンは、どうやって撮ったのか、また、役者が演じているのか、ドキュメンタリーを記録したものなのかなど、色々と考えながら観たのですけれども、本作品のリアリティを描く上で、こだわった点がありましたら教えてください。


メンドーサ監督:私たちが映画を作るとき、ほとんどが実際の生活の出来事であったり、実際に起こった出来事をもとにして作っています。映画制作をする上で、実際に起こった出来事を映画の中で再現していきます。再現する作業の中では、もちろん、演技をする役者や撮影に関わる人々、そして、編集にいたるまでのプロセスで様々なものが組み合わさり、映画制作が成り立っていると考えています。


ーー具体的な場面に沿って伺います。バイクでのカーチェイスの迫真力や、害虫駆除の場面に驚きました。実際に、大量のゴキブリやネズミが出てくる場面がありましたけれども、あれはどういう風に撮っているのですか。


メンドーサ監督:バイクでのカーチェイスですが、俳優は実際にバイクに乗ることができる役者です。スタントマンも使いましたが、街の各場所や車の中にカメラを隠し置き、主演は、カメラがどこに置かれているのかを知った上で撮影に臨みました。害虫駆除のシーンでは、実際にフィリピンには、ゴキブリのような害虫やドブネズミがいる地域が多く、子どもがネズミを捕まえてビニール袋に入れて持って行くシーンがあったと思うのですけれども、政府が住民の方々に駆除に協力してもらうために、ネズミを捕まえたら、米と交換することなどを行いながら駆除している状況です。本当にたくさんのゴキブリがいる地域もあります。


ーー害虫は撮影のために仕込んだわけではなく、本当にあのシーンのような場所で撮っていたのですね。


メンドーサ監督:映画を作成していることに変わりはないので、撮影のためにゴキブリを捕まえて置いたりもしましたが、駆除のシーンでは、実際のものを使いました。しかし、ネズミは白色だったので、ドブネズミに見えるように、スプレーで色をつけたこともありました。


ーーイサック役の主演俳優について教えてください。ベビーフェイスで可愛い俳優さんだと思いましたけれども、彼について教えてください。


メンドーサ監督:イサック役ですが、ビンス・●です。いちばん最初に彼が私の映画に関わったのは、『キャプチィブ:囚われ』の頃からです。それから、Nettflixシリーズの『アモン』にも関わっていますし、『ゲンサンパンチ』にも出演しています。彼は、私の監督の仕方や映画作りを理解している役者のひとりだと思っています。


ーー彼は、メンドーサ組の常連俳優ということですね。ところで、監督はかなり多作ですが、これで1本の映画を作ろうという決め手になるのもは、何でしょうか。


メンドーサ監督:私の映画作りの最終的な決め手は、私の直感であったり、私の持つ哲学であったり、最終的には、私の心であったりします。それによって、その映画を作りたいのかが決まります。また、自分の作品に限らず、ダニエル・パラシオ監督などのように、私のところで映画作りを学んだ映画制作者たちをサポートするときも、同じような理由で決めています。1作目の長編や2作目もそうでした。最終的に3作目までは、自分が関わった理由は、彼らとは映画作りの波長が合ったために、一緒に長く仕事をしていく理由にもなっています。


ーー監督は、プロデューサーとしても、たくさんの若い監督の作品を世に送り出していますね。最後の作品は、レイモンド・グチエルスさんのことだと思いますけれども。今回、アジアの未来部門の『ブローカー』のダニエル・パラシオ監督もメンドーサ監督のワークショップから出てきた方ですよね。


ーー監督は、フィリピンの暗部と今という時代を切り取る作風ですけれども、日本でも一般公開された『ローサは密告された』や今回の作品も、相当強烈な人間模様で、決して綺麗な人間だけではない人がたくさん出てくるわけですが、こういう風な作風についてのこだわりを教えていただければと思います。


メンドーサ監督:私が取り扱うテーマは、政治的なテーマだけではなく、社会一般的に課題があったときに、そのテーマを取り上げています。しれは、私がアーティストとして、ストーリーテラーとして、そういう物を見ています。ある問題や課題があったとき、様々な視点から解釈ができると思います。何かの問題に対して政府に抗議をするような意味で物作りをして皆さんにお見せしているわけではなく、映画を作ることで「こういう課題がありますよ」と喚起する意味や注目してもらう意味であり、批判的なものではないのですけれども、適切な注目を促す意味で様々な課題を扱っています。


ーーこの作品で重要な部分を占めているのが、若者たちが集まってやっているラップバトルですよね。ラップは世界中で流行っていますが、フィリピンではラップの人気が非常に高くて、ラップバトルをテーマにした映画が幾つも作られていますが、このラップ音楽に注目したのは、どういうきっかけだったのでしょうか。


メンドーサ監督:この作品では、「若さ」をテーマに取り上げていますので、若者が置かれている環境に注目しています。フィリピンでは、ラップバトルが非常に人気があり、多くの若者たちがラップバトルをフォローしているので、たくさんのイベントも行われています。コロナ禍の前には、たくさんのイベントがあり、そこにたくさんの若者が集まっていました。ラップをすることによって、自分の表現をラップを通して行えるので、心情や人の心が読み取れるということもあります。


ーー音楽による若者の叫びとなるとラップということなのですね。では、この作品の中での監督のいちばんのこだわりのシーンを教えてください。


メンドーサ監督:映画作りは、全てがいっしょくたとなって作品が作られるものなので、場面ということで選ぶことは難しいです。脚本を書いているときは脚本ですし、撮影が始まると、どうやって設定するのか、どうやって俳優に動いてもらうか、ブロッキングであったり、ロケであったり、手順であったり、カメラの位置も大事です。それが終わると、編集に入るので、そのときは、音楽であったり、それ以外のことが重要になっていますので、一つというか、一つ一つのプロセスにおいて、様々な要素を組み合わせながら映画を作っているので、そのために、シーンとしてどれか一つを選ぶことは難しいです。


ーーなるほどと思いました。もう少し絞りますけれども、監督は美術監督もご自身で行っていますが、美術に限ると、こだわった場面であったり、こだわったものがありましたら教えてください。


メンドーサ監督:実際にどういう風に映画を作るのかという全体の映画の中からかもしだされるフィーリングやムード、色というものを私は最も重要だと考えています。ムードは、本当に重要であると同時に、自分が求めているものを達成するのは、とても難しいことだと考えています。ムードというのは、色であったり、衣装の色であったり、フィーリングであったり、最終的に観ていただいたときに、どんな感じの映画に見えてほしいか、自分がどんな風に見せたいのか、ドキュメンタリー風の映画にしたいのか、もっとゴツゴツしたものに見せたいのかなど考えながら作っていくのが、本当に重要であり、それを達成するのは、非常に難しいものだと考えております。


ーー第31回東京国際映画祭(2018)では、審査委員長を務めていただきましたけれども、今回は、コンペティション部門への出品作家として参加されていますが、どういうお気持ちですか。


メンドーサ監督:とても幸せな気持ちです。映画の審査をする立場として作品を観ることと、作る立場とは違いますけれども、映画を作る作業は、コンペティションに出すために作っているわけではなく、何かを表現するつもりで映画を作っています。ただ、出来た映画がより多くのスクリーンで多くの人々に観てもらうことは、さらなる喜びになります。私の好きな日本で皆さんに観ていただく機会も私にとってはうれしいことです。


ーー映画の未来についての質問です。劇場での興業から、オンラインをプラットフォームとした配信が並行していますけれども、映画の未来は、どうなっていくとお考えでしょうか。


メンドーサ監督:業界という意味での映画の未来でしょうか。


ーー映画がどのように観られていくか、観られていくべきかということに絞りましょうか。


メンドーサ監督:フィリピンでは、ようやく今月から劇場で映画が観れる状況になりました。現実的には、技術の発達により、どこにいてもオンラインで映画が観られるようになってきているのですが、コロナ禍で、なかなか劇場に足を運んで映画を観ることができない状況が長く続いてしまったわけですが。私は、映画をオンラインで観られることを良いことだと思っています。ビジネス的にも、良いことだと思っています。そして、アーティストとして映画を作る人間としても、ある特定の国や、映画祭でしか観てもらえないということではなくて、世界中の人々に観ていただけることは良いことだと思っています。ただ、アーティストの中には、それを好まない方がいるのも事実です。私が映画制作を始めた頃は、35mmフィルムで撮影されていて、大きな劇場でフィルム作品を観ることは、特別な経験であったわけですが、今は、そういう状況とは違っています。どのような状況になっても、アーティストとして意味のある映画を作る活動そのものは、何が起きても、どういう状況になっても、それが止まることや左右されることは、あるべきではないと思っています。


ーー最後にひと言、皆さんへのメッセージをお願いします。


メンドーサ監督:皆さま、本日はありがとうございます。多くの皆さんが私の作品を観てくださったことに心から感謝しております。東京国際映画祭でいつも私の作品を観てくださっている方々にもお礼申し上げます。また、私のもう一つの作品である『』も東京国際映画祭で上映していただくことになり、その作品を観てくださる方にも感謝しております。このような機会を得たことをとてもうれしく思っております。ありがとうございます。


ーー昨日は、監督のお誕生日でしたでしょうか。


監督:はい、そうです。


ーーハッピーバースデー


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