第31回東京国際映画祭(TIFF)東京グランプリ『アマンダ(原題)』ミカエル・アース監督ティーチインレポート

残された少女と青年が喪失感と折り合いをつけながら過ごす日常を優しく描いた感動作!


2018年10月28日(日)、第31回東京国際映画祭(TIFF)コンペティション部門にて『アマンダ(原題)』が東京・EXシアター六本木で上映され、フランスのミカエル・アース監督とプロデューサーのピエール・ガイヤールがティーチインに出席した。MCは同映画祭コンペティション部門プログラミング・ディレクターの矢田部吉彦がつとめた。

矢田部吉彦:ミカエルさん、ピエールさん、ようこそ東京にお越しくださいました。ミカエル・アース監督をお迎えするのは、長年の夢でした。それが、こんなに美しい作品で実現するとは、本当に光栄に思っております。ありがとうございます。お二人から、ひと言ずつ、会場のお客さまへお言葉を頂戴いただけますでしょうか。



ミカエル・アース:今回、ご招待いただきまして、ありがとうございます。今回は、私も作品を携えて来ることができまして、非常にうれしく光栄で感謝の気持ちでいっぱいです。私たちもこのように参加させていただくことは夢でした。こうやってみなさまに作品を紹介できることは、大変重要な機会ですので、本当に素晴らしい機会を与えていただき、ありがとうございます。また、映画祭スタッフや矢田部さんをはじめ、色々な方々に本当に温かい歓迎をいただきまして、心から感謝しております。フランスでも、これから公開になるのですけれども、今回は是非とも、日本のお客さまのコメントをいただきたいと思って楽しみにしています。


ピエール・ガイヤール:コンバンハ。みなさま、こんばんは。私たちにとって、今回このように参加できますことを大変光栄に思っております。日本映画は、フランスでも非常にプレステージがあり、この映画祭も非常にプレステージのあるものです。今回、私たちの作品が選出されたと周りに話したところ、大変羨ましがられました。今回、この映画祭に参加できただけはなく、もう一つ、日本のフランスでも有名なビターズ・エンドという配給会社から、来年、日本でも公開されることが決まりまして、公開も決まったという二重にハッピーな気持ちでおります。

《 Q & A レポート 》


――本当に監督の世界に対する誠実な眼差しに感動しました。この映画のとくに素晴らしいところは、テロリズムを題材にしていながら、憎しみが描かれていないところです。憎しみよりも、いわゆる喪失を抱えた被害者なり、遺族たちが、その後の日常を喪失感と折り合いをつけながら、どうやって日常を過ごすのか、このことがどれだけ大事であるのかということを教えてくれました。日本でも震災以後、多くの映画監督たちが震災の喪失から日常とどうやって折り合いをつけて生きていくかという作品を数多く作っているのですけれども。こと、テロリズムに関してだと、日本には、アメリカのハリウッドから入ってくるような作品が多く、そこには必ず憎しみが伴っており、憎しみを増幅させるような感情を湧き起こすような展開が多いので、僕はこのような作品をはじめて観ました。本当に日本の観客には、とても通じるものがあると思います。この作品に対するパリの方々の反応を聞きたかったのですが、まだ公開されていないんですね。感想になりますが、ありがとうございました。


ミカエル・アース:アリガトウ。

――とても素晴らしい作品をありがとうございました。今回、アマンダ役の少女は、一般の方だと聞いているのですけれども、一般の子どもを(役者として)その気にさせるために、どのような演技指導をされたのか教えてください。


ミカエル・アース:今回、キャスティングに際して、たくさんの女の子たちに会いました。すでに演技経験のある子役たちにも会ったり、いわゆるワイルドキャスティングと呼んでいるのですけれども、学校から子どもたちが出て来るところを待ち受けて観察したり、スポーツクラブなどの習い事から出てくる子どもたちを観察して、「ちょっと、この子が良い顔をしているな」と思ったら声をかけるといったこともして、子どもたちに会っていきました。演技については、これは子ども相手でも、大人相手でも、信頼関係がとても重要です。また、このプロジェクトのどんなところが大切なのか、意図や主旨を理解してもらうことが非常に重要でしたので、きちんと説明をして理解してもらいました。今回のように、子どもを撮影に使うときには、フランスでは、法律で1日に3〜4時間ほどしか労働をさせてはいけないという制約がありましたので、限られた制約の中でも、彼女がしっかりとプロジェクトを理解してもらって、集中してしっかりとやってくれる子でしたので、きちんと理解してくれてやりとげてくれました。映画自体は、重苦しい題材が一部出てくるのですけれども、彼女自身がこの撮影が楽しいと、ハッピーな気持ちで挑んでくれましたので、とてもスムーズに進みました。

矢田部吉彦:今、アマンダ役のイゾール・ミュルトゥリエさんが素晴らしいという話題が出たのですけれども、ダヴィッド役のバンサン・ラコストさんは猛烈な売れっ子なので、そんなに時間がないと思うのですけれども。あれだけ強い二人の絆を描くためには、かなりの時間を一緒に過ごさなければいけなかったと思うのですけれども、二人をあれだけ強い絆で描く工夫は、どのようにされたのか教えてください。



ミカエル・アース:バンサンさんとイゾールちゃんは、もちろん撮影前に会ったのですけれども、非常に良かったのは、二人ともああいった設定になっていますけれども、彼ら自身もそれに少し似通った状況で、例えば、バンサンさんご自身は、20代とまだ若いですし、彼も周りに子どもがいなかったので、最初はどうやって彼女に接して良いものか分からなくて、戸惑ってしまうところがありました。ですから、バンサンさんとイゾールちゃんもそうですし、劇中の中の二人もそうですし、最初、会ってどう接して良いのか分からないところ、徐々に時間を経ていくことによって、映画の中の二人も、実際の役者の彼ら二人も、どんどん親密になっていって、信頼関係ができていった感じでした。フィクションの映画である部分と、実生活の彼らが徐々に時間を重ねることによって、信頼ができてきて、親密になっていったという経緯がありました。

ピエール・ガイヤール:その点では、バンサンさんは非常に有名な俳優さんですけれども、今までは主にコメディを多く演じてこられたので、こういったドラマックでメロドラマチックな作品は、今までやったことがなかったので、非常に彼も「ぜひ、やってみたい」というチャレンジ精神で応じてくれました。彼も撮影当時は24歳でしたので、その時点では、まだやったことのなかった役柄にミカエル監督と一緒に意欲的に挑戦してくれました。

――とても美しい映画だと思いました。いちばん印象に残ったシーンが、ダヴィッドがアマンダを抱いて歩いていくシーンで、ダヴィッドは前を向いて歩くのですけれども、抱えられたアマンダは逆に後ろを向いて歩くシーンがとても印象的でした。この作品では、登場人物が前を向いて街の中を歩いたり、自転車に乗って前に進むシーンがとても多いと思いました。なぜ街を歩いたり、自転車で走ったりするシーンが多いのでしょうか。


ミカエル・アース:私の映画では、結構歩くシーンが多いんですよね。今回の作品では、少し題材が重い部分もありますので、少し息を吹き込んで軽やかさを与えたり、リズミカルな様子を出したり、観ている人がより受け入れやすいような、呼吸ができるような、そんな印象を与えたいと思って、あのような街を疾走するシーンが出ています。シナリオの中に意図的にああいったシーンを組み込むのではなくて、ちょっと息を与えるような、ちょっと息を吹き込むような感じで、ああいったシーンがあります。


――美しい映画をありがとうございます。非常に複雑な心情が重なり合うこの作品を『アマンダ(原題)』にした理由を聞かせてください。また、他にタイトルの候補があれば教えてください。


ミカエル・アース:色々なタイトルが思いつくものですけれども、今回はプロデューサーともディスカッションを重ねて、このタイトルに決めました。この『アマンダ(原題)』というタイトルにしたのは、非常にピュアで無垢な感じがして、とてもシンプルで良いかなと思いました。この映画の中にも出てくる「エルビスは建物から出た」にしても良かったのですけれども、「アマンダ」と言った方が響きも良いですし、本当に色々な想像もふくらみますし、とくにピュアで無垢な感じが良いと思って、今回はこのタイトルにしました。

――アマンダの祖母の国をイギリスに選んだのは、テロなどの国際情勢をかんがみてなのか、それとも何かフランスの文化的な理由があったのかが気になりました。よろしくお願いします。


ミカエル・アース:個人的な心情の表れでもあるのですけれども、自分にとって、どこで撮影をするのかということは、非常に重要なので、いつか、ぜひロンドンでも撮影をしたいなと思っていました。フランス人にとっては、最初の海外というと、思春期の頃には、イギリスに渡るというのが象徴的な証になります。私自身も、音楽が好きだったので、音楽といえばイギリスでしたし、結構、自分にとっても有名な場所でもありましたし。今回は、テニスの話も出てきますけれども、ウインブルドンというのは、世界の大会の中でもビックイベントだと思います。そういったことと、ただ自分が描いてみたかった場所でもあるということでロンドンにしています。

矢田部吉彦:ミカエル監督は、色々な都市で映画を作り、この作品の前作の『この夏の感じ』(2015年)も、これまた素晴らしい作品があるのですけれども、これが3つの都市で撮られていまして、10月29日(月)にアンスティチュ・フランセ東京にて上映されます。もし、この監督はすごいなと思われたら、ぜひ、彼の前作品もご覧になることをお勧めします。私が今回、なぜ彼を呼びたかったということが、その作品を観るとお分りいただけると思います。また、『アマンダ(原題)』は、来年初夏にシネスイッチ銀座、他で公開が決まっておりますので、ご覧いただけたらと思います。ミカエル監督、最後にひと言、お願いします。


ミカエル・アース:ありがとうございます。アリガトウ。


フランスのミカエル・アース監督『アマンダ(原題)』は、第31回東京国際映画祭コンペティション部門の最高賞である東京グランプリ/東京都知事賞と最優秀脚本賞 Presented by WOWOWの二冠を受賞した。

ティーチインの概要
開催日:2018年10月28日(日)
会場:EXシアター六本木
登壇者:ミカエル・アース(監督/脚本)、ピエール・ガイヤール(プロデューサー)、矢田部吉彦(MC)

[スチール/文:おくの ゆか]


《 ミカエル・アース監督プロフィール 》
1975年2月6日、パリに生まれる。
2004年に大学を卒業して、『Charell』(2006年)『Rrimrose Hill』(2007年)がカンヌ国際映画祭批評家週間に、『Montparnasse』(2009年)がカンヌ国際映画祭監督週間に入選し、最優秀短編賞を受賞。長編監督作品『Memory Lane』(2010年)がロカルノ国際映画祭コンペティションに選出。『この夏の感じ』(2015年)に続き、本作が長編第3作目である。


《 『アマンダ(原題)』ストーリー 》
©︎ Nord-Quest Films

便利屋業をしているダヴィッド(ヴァンサン・ラコスト)は、パリに出てきたばかりのレナ(ステイシー・マーティン)に出会い、恋に落ちる。その直後、突然の姉の死によって、ダヴィッドの人生に予期しない変化が起こる。ダヴィッドは、ショックと辛さを乗り越えながら、残された姪っ子のアマンダ(イゾール・ミュルトュリエ)の世話をしながら、自分を取り戻してゆく。

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