映画『青春デンデケデケデケ』レビュー

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映画『青春デンデケデケデケ』(1992)レビュー

ロックに明け暮れた少年たちの青春物語!

芦原すなおの直木賞小説の空気感が漂う作品!


≪みどころ≫

『青春デンデケデケデケ』は、芦原すなおの青春小説。1990年に第27回文藝賞、1991年には第105回直木三十五賞を受賞して、1992年に同名にて大林宣彦監督が映画化。1960年代の四国の観音寺市が舞台となり、ベンチャーズの影響を受けた少年が高校に入学してロックバンドを結成し、メンバー4人とロックに明け暮れる高校生活を描いている。

原作が受賞すると、複数の映画化の企画が寄せられたが、いずれも舞台やキャラクターを変えたりと大幅な改変を伴うものだった。2006年の「さぬき映画祭」では、ある制作会社の企画書では、舞台を湘南に移して、新人の監督で撮影したいと要望があったそうだ。大林監督も、原作の観音寺弁を標準語へ変更や、日本のテケテケサウンドには、湘南や加山雄三のイメージがあるので、舞台を湘南に変える要望を受けたという。しかし、「観音寺弁がいい。舞台も変える必要はない。」と断わっている。大林監督が可能な限り原作に忠実な映画化を芦原に提案することで映画化が実現し、原作の文章を生かしたナレーションやテンポの速い場面転換、ロックをはじめとする当時の音楽も多数使用。それに加えて久石譲の音楽も良い。一部変更はあったものの、おおむね原作に忠実なストーリーとなって仕上がった。

芦原は、本作を書く際に、自分が一番好きなロック・ミュージックをテーマにしようと思い立ち、高校時代というストレートで感受性の固まりのような時代に一番好きだったベンチャーズにスポットを当てた。出身地である香川県観音寺を舞台にして、讃岐弁をふんだんに使うことで作品に潤いを与え、ロックにありがちな屈折感も閉塞感もないけれど、純粋にロックが好きな普通の少年の格好の悪い青春小説を書いてみたかったと心境を述べている。少年たちを25年後の本人の目で描くという小説の構造のお陰で、過去の滑稽でいじらしい部分も含めて、自分を冷静に、客観的に、暖かい目で見ることができ、方言などの要素もあいまって、全体に暖かみやユーモラスな雰囲気を漂わせることができたと振り返り、大林監督の映画には、「あの映画は単に原作に忠実だというだけでなく、映画全体に小説と共通する独特の空気感があふれていました。」と語っている。

キャストには、主人公の藤原竹良役は、子役から活動して、『野ゆき山ゆき海べゆき』(1986年)で映画デビューした林泰文がつとめ、合田富士男は、『瀬戸内少年野球団』(1984年)の大森嘉之が好演して、観客からの評判も高かった。白井清一役は、『バタアシ金魚』(1990)で映画デビューし、今や受賞歴の多い浅野忠信、岡下巧役は、TV「北の国から」シリーズ(1987-2002年)の永堀剛敏が演じている。ザ・タイガースだった岸部一徳のバンドに燃える少年たちを支える寺内先生の姿も印象に残る。また、アイドルとして、一世を風靡した南野陽子は、歌手活動を休止したときに観音寺市ロケを単身で訪れて、「炊き出しでもいいから映画の撮影に参加させて欲しい」と長期滞在し、スタッフの夜食作りの手伝いなどもしたという。助手席の女役で出演。

撮影は、リアリティを高めるために、屋外シーンを中心に16mmカメラを3台用意して、リテークなしで同時に回し続けた。照明も自然光を利用。撮影された大量のフィルムの編集作業は5ヶ月にも及び、映画評論家の淀川長治も本作の編集とテンポの良さを評価した。

原作の雰囲気を残し、観るものを青春時代へ連れ戻して、ちょっと切ない気持ちを思い出させる作品である。

≪ストーリー≫

1960年代中頃の四国の田舎町を舞台に、ベンチャーズに憧れてロックバンドに情熱を燃やす高校生たちを軽快に描く。特別出演するベンチャーズ「パイプライン」をはじめ、60年代ロック・ミュージックが全編に散りばめられている。1965年3月、香川県観音寺市に住む高校進学を控えた少年・藤原竹良(林泰文)こと「ちっくん」は、ラジオから流れてきたベンチャーズの「パイプライン」の「デンデケデケデケ」というイントロに電気的啓示を受ける。高校に進学すると、魚屋育ちの白井清一(浅野忠信)、寺の跡取りの合田富士男(大森嘉文)、練り物屋の息子の岡下巧(永堀剛敏)たちを誘ってロックバンドを結成。夏休みのアルバイトでお金を稼いで楽器を手に入れ、バンド『ロッキング・ホースメン』の活動をスタートした。

◻️映画情報

監督:大林宣彦
脚本:石森史郎
原作:芦原すなお
撮影:萩原憲治、岩松茂
美術:薩谷和夫
音楽:久石譲
出演:林泰文、柴山智加、岸部一徳、ベンガル、大森嘉文、浅野忠信、永堀剛敏、佐藤真一郎、根岸季衣
1992年/35mm/135分/PSC

◻️監督プロフィール

1938年広島県尾道市生まれ。幼少の頃から映画を撮り始め、大学時代に自主制作映画のパイオニア的存在となる。CMディレクターとして手がけた作品は3000本を超える。映画監督として、日本の映像史を最先端で切り拓いた、まさに「映像の魔術師」。1977年に『HOUSE/ハウス』で商業映画に進出し、80年代の「尾道三部作」は世代を超えて熱狂的な支持を集めた。「同じことは二度としない」と公言。大林監督のフィルモグラフィは1作ごとに異なる実験が行われている。90年代には実験精神溢れる「新・尾道三部作」を製作。近年では、強い反戦の思いを込めた「大林的戦争三部作」を製作。
自主製作映画『ÉMOTION=伝説の午後・いつか見たドラキュラ』(1967年・16㎜)が全国の画廊や大学で上映されて高評価を得る。『喰べた人』(1963年)はベルギー国際実験映画祭審査員特別賞を受賞。『HOUSE/ハウス』(1977年)で商業映画に進出。自身の古里・尾道を舞台にした『転校生』(1982年)、『時をかける少女』(1983年)、『さびしんぼう』(1985年)は「尾道三部作」と称されて世代を超えて親しまれる。『異人たちとの夏』(1988年)で毎日映画コンクール監督賞、『北京的西瓜』(1989年)で山路ふみ子監督賞、『青春デンデケデケデケ』(1992年)で平成4年度文化庁優秀映画作品賞、『SADA』(1998年)で第48回ベルリン国際映画祭国際批評家連盟賞、『理由』(2004年)では日本映画批評家大賞・監督賞、藤本賞奨励賞を受賞。『この空の花〜長岡花火物語』(2011年)、『野のなななのか』(2014年)、最新作『花筐/HANAGATAMI』(2017年)は「大林的戦争三部作」となり、第72回毎日映画コンクール日本映画大賞、第91回キネマ旬報 監督賞を受賞。2004年春の紫綬褒章受章、2009年秋の旭日小綬章受章。

◻️『花筐/HANAGATAMI』公開記念 大林宣彦監督傑作選 特集上映


世代を超えて熱狂的な支持を集める大林宣彦監督『花筐/HANAGATAMI』の公開を記念して、2018年2月10日(土)〜3月2日(金)まで横浜シネマリンにて懐かしい選りすぐりの11作品が上映中。
横浜シネマリン(大林宣彦監督傑作選 特集上映)
交通アクセス
・JR京浜東北線 関内駅 北口徒歩5分
・横浜市営地下鉄 伊勢佐木長者町駅 3B出口徒歩2分
・京浜急行 日ノ出町駅 徒歩5分
〒231-0033 横浜市中区長者町6-95
TEL:045-341-3180/FAX:045-341-3187
映画館公式サイト:http://cinemarine.co.jp/


[写真:©︎ PSC /文:おくのゆか]

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