第31回東京国際映画祭(TIFF)コンペティション部門国際審査員クロージングセレモニー後記者会見レポート

©︎ 2018 TIFF

南果歩「『アマンダ(原題)』は、人間の心の中の葛藤というものをとても優しく繊細に描いた作品で、本当に誰からも異論は出なかった」


2018年11月2日(金)、第31回東京国際映画祭のアウォード・セレモニーが東京・六本木のEXシアターにて行われた。今回は、フランスのミカエル・アース監督の『アマンダ(原題)』が最高賞の東京グランプリと最優秀脚本賞 Presented by WOWOWの二冠に輝いた。セレモニー終了後には、コンペティション部門の審査委員長のブリランテ・メンドーサ(フィリピン/映画監督)、審査員のブライアン・バーク(アメリカ/プロデューサー)、タラネ・アリドュスティ(イラン/女優)、スタンリー・クワン(香港/映画監督・プロデューサー)、南果歩(日本/女優)が記者会見を行った。

《 記者会見レポート 》


――コンペティション部門の審査を終えられたお気持ちをお聞かせください。

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ブリランテ・メンドーサ:まずは、ここにおります審査員のみなさまに心からお礼を申し上げます。本当にお疲れさまでした。ともに素晴らしい時間を一緒に楽しく過ごすことができました。審査の結果に関しても満足しています。賞を決めるときには、揉めることもなく、本当に楽しく決めることができました。
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ブライアン・バーグ:今回、私ははじめて審査員として映画祭に参加させていただきました。そして、ここにいる4人の審査員の友を作ることができました。本当に素敵な作品を鑑賞しました。ここにお集まりのみなさまがどれだけの作品をご覧になられたのかは定かではありませんけれども、今回、このような素晴らしい作品を発表しましたので、ぜひ、みなさんにもこれらの作品に出会っていただきたいと思います。とくに、受賞された作品をお楽しみいただけたらと思います。

タラネ・アリドュスティ:みなさん、こんばんは。今回は、本当に私にとって、この映画祭に参加させていただいたことがとても興味深い体験となりました。ここに集まっている5人は、それぞれ異なる国から来て、異なる言葉を話し、異なる文化の出身の人たちですが、私たちは、なぜか会った瞬間に本当に1時間くらいの間で大親友のように仲良くなりました。このようなことは、普通には考えられないことなのですけれども、私たちが持つ団結力や一体感というものは、私たちがともに共有している好みや思考なども支えになったのではないかと思います。今後、私はこの4人をとても恋しく思うでしょう。このような経験が今後も続くことを楽しみに願っております。
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スタンリー・クワン:みなさん、こんばんは。私が常に安心や安らぎを感じることは、2つあります。まず1つめは、監督として現場に足を踏み入れるときです。私と一緒に共同で作業をしてくれて、私を支えてくれる撮影監督や技術の人たちと仕事をしているところで安心感を感じます。2つめは、私が劇場で映画を鑑賞しているときに大変安らぎを感じます。そして、今回は、16本の作品を安心できる劇場の中で鑑賞させていただき、また、ここにいる4人の審査員たちと本当に素晴らしい時間を過ごすことができまして、とてもうれしく思っています。私が大変幸せに思っていることは、私たちが作品を選択をしていく中で、共通の認識を持っていたことに喜びを感じています。

南果歩:16本の映画を見終えて、5人で賞を決めて、今、本当にホッとしております。そして、私にとっては、はじめての国際映画祭の審査員だったのですけれども、その中で素晴らしいフィルムメーカーたちと時間を共有でき、一つの映画に対して愛情を持って接し、色々と作品について語り合えたということは、私の今後のキャリアにおいても、とても大きなポイントになったと感じております。やはり、人の手で映画は作るものなんですけれども、こうして人の目によって、人の感性によって、賞を選ぶ難しさも経験できました。結局は、人の心に訴えかけるものが映画であると、審査員という立場においても、いち観客においても、現場に身を置く俳優としても感じております。この映画祭を通じて、早く映画の現場に身を置きたいなという気持ちが募っております。今後、この4人の仲間の作品を特別な気持ちで映画館で観ることになると思うと、世界がとても近いように感じております。

――それぞれの授賞の決め手について教えてください。


ブリランテ・メンドーサ:私たちの今回の作品の選定については、毎日約3本の作品を鑑賞して、話し合いをしました。色々と議論を行う中で、1本について細かく形式張って堅苦しく話していったわけではなくて、作品を観た後に良かった点はどこかという話をしました。全16本を鑑賞し終えた時点で、私たちの中で最も良かった5〜6本を選びました。そして、どれが最も良かったということを話し合い、受賞作品を決めていきました。

――『アマンダ(原題)』が東京グランプリとなった決め手は、ストーリー性なのか、テーマ性なのか、全体の完成度なのか、その点をお聞かせください。


ブライアン・バーグ:それは、南果歩さんが『アマンダ(原題)』だと言ったので決まりました(笑)。

全員:爆笑

ブリランテ・メンドーサ:いいえ(笑)。『アマンダ(原題)』は、作品全体が本当に私たちに良い影響を及ぼすものであり、演技ももちろん素晴らしく、脚本も良くて、演出も素晴らしかったです。非常に微妙な細かいところの描写がとても力強い作品になっており、色々違った方向性にいける内容ではありましたけれども、失敗することなく、全ての要素が上手くまとめられていて、大変良かったと思います。また、最後の結末では、私たちは本当に感動させられました。私たち全員がこの作品が良いと思いました。本当に全員一致で今回のコンペティション部門の中では最高の作品だと感じました。


――先ほどのセレモニーでは、代理で麒麟像を受け取ったローラン・ピック駐日フランス大使がミカエル・アース監督について「日本人らしい」とおっしゃっていましたが、南果歩さんはご覧になられて、そういう風に感じられましたでしょうか。

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南果歩:そのときは、日本人らしいとは感じなかったのですけれども。残された人たちの心の傷の表し方がとても繊細で、傷を負ったとしても、日常生活は否応なく過ごさなくてはならない。ご飯を食べて、学校にも行って、仕事にも行って、その中でふと蘇る傷口のうずきというものが本当に誰の人生にも起こりうる。誰もが大なり小なり、そういう傷を抱えている。そういうところでは、主人公は少女だったり、残された弟だったりするのですけれども、誰の心の中にも傷が潜んでいるというところでは、共感ができるし、人間の心の中の葛藤というものをとても優しく繊細に描いた作品で、本当に誰からも異論は出なかった作品です。

――審査員が出す賞は7つありますけれども、受賞作品は4つしかありません。これは、どのような理由からでしょうか。


ブリランテ・メンドーサ:今回の受賞作品を選出することは、簡単なことではありませんでした。どの作品が受賞に値するかを考えて、決断をしていく中、私たちが全員一致で「第31回東京国際映画祭の東京グランプリはこれだ」という作品になりました。その他には、作品のどこが良かったのかという点を選んで、分配していかなくてはならず、やはり1つの作品に3つの賞を与えることは思わしくないこともあり、制限もありますので、1つの作品が2つの賞を取ることになりました。賞の中には、賞金が含まれていますので、実践的な意味も考慮しながら、選出をしていきました。作品の良さを考慮して、私たちがこのコンペティション部門の中で良かったと思う5〜6本の中から絞り、今回の東京国際映画祭のコンペティション作品の中という位置付けで、私たちはこの作品を認識するべきだという形で決定しました。

――結果的に受賞した4作品は全てヨーロッパの作品ですが、アジア人の審査員が多い中、ヨーロッパの作品に偏ったことについて議論は出なかったのでしょうか。

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タラネ・アリドュスティ:私たちの中でも、もちろんそういった会話はありました。今年の記者会見でも、私たちが16本の作品を鑑賞するに当たり、国名や私たちがどの国の映画祭に参加しているかなど、全ての前情報は気にしないことをお約束しました。ですから、監督が男性なのか、女性なのかなど、何も情報を得ないで、あえて真っさらな状態でそれぞれの作品を鑑賞しました。それが私たちにとって、適切な審査への取り組みであったと思います。東京国際映画祭では、16本の作品の中から7つの賞を授与しなければなりません。私たちは審査員として、委員長が話していた映画的な言語をきちんと扱っているのかという点も考慮しながら鑑賞しました。自分自身、まずは一人の観客として鑑賞しました。私が映画を観るときには、この物語を理解するためには、努力が必要なのか、作品が自然に語りかけてくれるものなのかということが重要だと思っています。私はアジア人なので、アジアの作品が受賞してくれたら良いなと思います。しかし、私たちは映画を観ているわけですから、純粋に自分たちの仕事を全うしました。また、観客賞が日本の作品だったことは、非常にうれしく思っております。日本の作品が多くの人々に楽しまれることを願っております。日本やイランを含むたくさんのアジアの作品や西洋の作品が今回のコンペティション部門に参加していましたけれども、この映画祭は東洋を位置付けたものではありませんので、私たちはとにかく最高の作品を決めるということに徹しました。もし、私たち5人ではなく、他の方が審査員であったのならば、全く別の結果が出ていたかもしれません。ですが、第31回東京国際映画祭では、私たちが一致した形でこのような結果となりました。

《 第31回東京国際映画祭 受賞作品・受賞者 》

◻️コンペティション部門
◯ 東京グランプリ/東京都知事賞
ミカエル・アース監督『アマンダ(原題)』(Amanda)

◯ 審査員特別賞
マイケル・ノアー監督『氷の季節』(Before the Frost)

◯ 最優秀監督賞
エドアルド・デ・アンジェリス
エドアルド・デ・アンジェリス監督『堕ちた希望』(The Vice of Hope)

◯ 最優秀女優賞
ピーナ・トゥルコ
エドアルド・デ・アンジェリス監督『堕ちた希望』(The Vice of Hope)

◯ 最優秀男優賞
イェスパー・クリステンセン
マイケル・ノアー監督『氷の季節』(Before the Frost)

◯ 最優秀芸術貢献賞
レイフ・ファインズ監督『ホワイト・クロウ』(The White Crow)

◯ 最優秀脚本賞 Presented by WOWOW
ミカエル・アース監督『アマンダ(原題)』(Amanda)

記者会見概要
開催日:2018年11月2日(金)
会場:EXシアター六本木 2F カフェ
登壇者:ブリランテ・メンドーサ(フィリピン/映画監督)、審査員のブライアン・バーク(アメリカ/プロデューサー)、タラネ・アリドュスティ(イラン/女優)、スタンリー・クワン(香港/映画監督・プロデューサー)、南果歩(日本/女優)

[スチール:31th TIFF公式オフィシャルスチール/文:おくの ゆか]



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